2024年11月 5日 (火)

追悼 楳図かずお

追悼文が続くのは寂しいけど楳図先生もまた俺の人生に多大なる影響を与えた偉大なるアーティストの一人なので、巨匠を偲びつつ個人的な思い出話を綴っていこうかと。

初めて楳図かずお作品に触れたのは小一の時で、姉貴が買ってきたサンデーコミックス恐怖全3巻。とりわけオープニングを飾る作品うばわれた心臓に強烈なトラウマを植え付けられ暫くは表紙さえ怖くて見る事が出来なかった。

終盤の展開も怖いけど、とにかく7歳児の俺を恐怖のどん底に叩き込んだのはヒロインが仮死状態で意識はあるのに体が動かず声も出せず生きたまま心臓を摘出されてしまうシチュエーション。読み返すと摘出手術シーンの書き文字がとてつもない恐ろしさで悲鳴が聞こえてきそうなほど生々しい・・というのに仮死状態だからヒロインの顔は無表情という。この描写に震え上がった同志は星の数でしょう。しかもこの作品、たった16ページしかない。恐怖マンガの巨匠ここにありといった感のある大傑作。

同時期に読んだサンデーコミックス怪第3巻収録おみっちゃんが今夜もやってくるも壮絶な恐ろしさ。実はこれ昭和30年代に執筆された蔵出し作品で恐怖シーンの多くが加筆だけど、その加筆部分がとんでもなく怖い。おみつの亡霊が夜な夜な庭先に現れロウソク片手に窓ガラスを素通りしてヒロインへにじり寄る描写が秀逸で、これまた少年時代にトラウマを植え付けられた一作。

そして広く知られる通りこの恐怖マンガの巨匠はギャグマンガの巨匠でもあり、その振り幅が凄まじい。以前も熱く語ったけど、まことちゃんの脇役らん丸は俺の中じゃバカボンパパやこまわり君に匹敵する爆笑必至の名キャラクター。その存在を初めて知ったのは丸井中野本店にあった書店(確か4F)で、立ち読みしてたら強烈な笑撃に見舞われ笑いを噛み殺して全身震わせながら読んだ事を思い出す。 

他にも多くの傑作があるけど俺の中では漂流教室こそがトップオブトップ。もう何一つ文句の付け所がない傑作中の傑作。これも機会ある度に書いてるけど俺にとってはあしたのジョー、ブラックジャックと並び崇め奉る少年マンガベスト3のひとつ。

こちらも魅力を語り始めたらキリがないけど個人的に印象深いのは鳥になって飛んでいく下級生、怪虫襲来でイスになるシーン、その怪虫へ果敢に立ち向かい無惨に散る池垣君、高松君の虫垂炎摘出手術シーン、ミイラになる大木選手、女番長、未来人間、大友君との確執、少年マンガ史上最悪のヒール関谷etc... 嗚呼もう止まらない。怖くて気持ち悪くて面白くて何度読み返しても飽きが来ない。この大傑作を世に残しただけで楳図先生は文化勲章もの。でもそれにとどまらないからこそ真の巨匠なんだと思う。

 俺、基本的にマンガ属性の人間じゃないから未読の楳図作品は数知れず。特に晩年の作品は全く読んでない。サンデーコミックスの恐怖マンガも刊行されたうち半分は読んでないから悲しむヒマがあるなら読めばいい。取り敢えずは手元にある恐怖全3巻と怪第3巻と漂流教室新書版全11巻とオリジナルおみっちゃん豪華本を読み返して故人を偲ぶ事にする。

2023年11月 6日 (月)

料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?

表題のリュウジさん著書を読み進めてるけど面白いなぁ。それだけじゃなく凄え勉強になる。俺も食の好き嫌いは多いから化調否定派諸氏にこれ読んで味の素好きになってねとか言う気ないけど、基礎知識なしに先入観で毛嫌いしてる人は読んだ方が良いかもとだけ言っておく。

記述によれば化学調味料という俗称がうまみ調味料へ移行したのは1985年とのこと。化調と言えば切っても切り離せないのが美味しんぼの化調ディスりだけど、ちょっと気になって連載開始時期をwikiで調べたら1983年。マンガの悪影響で化調がイメージダウンした時期と見事に重なる。ただ当時は自然食ブームとかもあったから、世間的イメージが低下してるところへ美味しんぼが追い打ちをかけたってのが実情かも。

しかしながら、その遥か以前に化調をディスった伝説的グルメマンガがある。

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包丁人味平。これは最終章となったラーメン祭りの1ページで連載時期は1976年頃か。俺が読んだのは美味しんぼ登場の少し前だったと思うけど、このエピソードに触れて化調にネガティヴなイメージを植え付けられた直後、山岡さんや海原雄山から散々悪口を聞かされ徹底的に感化されて化調の類いを避けるようになった。とは言え当時も今もラーメンが大好物でコンビニおにぎりとか好んで食うし、言わずもがな市販されてる食品の大半に化調が含まれてるから避けても意味ねえと思うに至り偏見は消えていった。リュウジさんも書いてるけど味の素を徹底的に批判してる人がほんだしは愛用してるとか滑稽でしかない訳で。

それでも食卓に化調を置かない時期は続き、久々に使ったのが2014年3月。結構最近だな。この頃から積極的に自炊を始め、どうにもこうにも上手くいかなかったので藁をも掴む心境で使い始め今に至る。それでも味の素じゃなくトップバリュのうまみ調味料を買ったのは最後の抵抗だったのかな。

で、先の記述通りガキの頃はそんなに好きじゃなかったんだけどその理由もリュウジさんの著書に触れて明確になった。要は入れ過ぎてたんよ。極端な話、ラーメンに味の素を大さじ一杯入れたら食えたもんじゃなくなるからね。砂糖や塩をアホみたいに振りかけたら何でも不味くなるのと一緒。

でも適量加えると俺の下手クソな料理がまともに食える代物へ変貌する。正に魔法の粉。嫌いなら仕方ないけど俺は嫌う理由がない。むしろ救いの神と崇め奉り愛用してる。俺の化調観はそんな感じか。

んじゃ続きを読む事に。読みやすいから夕方には読了だな。

2023年6月 8日 (木)

マンガとアニメの昔話

昨夜は【推しの子】全話読了後、初となるアニメ視聴。当然ながら先の読めないドキドキワクワク感は味わえなくなってしまったけど、それで面白くなくなる事もなし。原作に忠実なキャラたちが総天然色で動いて喋るのは魅力的だし、とにかく原作ファンも毎回絶賛する演出が見事。多方面で語られまくってるけど第6-7話とかホント素晴らしかったもんなぁ。内容が現実の事件とシンクロする事で少しミソが付いたみたいだけど、そんなの全く問題にならない神回であった。

しかしシーズン1で何処まで描かれるか分からんのだが、12話までとすればあのヤマ場までか。次に控えてるのが結構な大波だから描き切るには25話ぐらいまで引っ張らないと無理だし、恐らくあそこで切って次のヤマ場はシーズン2へ持ち越しになるだろうな。嗚呼待ち遠しい。ちなみに手元の単行本だけど1回読んだら絶対読み返さないようにしてる(うろ覚えぐらいでアニメ作品と向かい合った方が楽しめるに決まってるので)。だから早々に手放しちゃっていいんだけど、逆にアニメで放映済みのエピソードはオリジナルを再確認したくなるからもう暫く持ってようかと。

ところで連載中の原作マンガを読み切ってからアニメ作品へ向かい合うのは下手したら浦沢直樹さんのYAWARA!以来。鬼滅も全話読んだけど連載終了後に単行本を一気読みしたクチなんで。ちなみにYAWARA!はバルセロナ五輪の翌年1993年に完結。何とまあ30年前ですか。今となっては古典だな。更に言えば週刊誌を毎週買ってまで読んだ唯一のマンガでもある。他にもドカベンやら北斗やら連載をリアルタイムで追いかけたマンガは色々あるけど、いずれも立ち読みや友人との回し読みで済ませてたから毎週楽しみに買ってたマンガ雑誌はビッグコミック スピリッツが最初で最後。

ガキの頃は金がなくて買えなかったって事情もあるか。手元に1冊だけある70年代の週刊少年チャンピオンを見たら定価130円。高校生にもなればバイトして苦もなく買える金額だけど小学生じゃなけなしの小遣いはたいてもせいぜい月イチでしか買えない。だから雑誌じゃなく単行本で、少しでも出費額を抑えるため古本屋で探して買ったり。そんな貧乏ライフを満喫してた頃、家へ遊びに行けば雑誌が部屋にゴロゴロ転がってて単行本も全巻揃ってる金持ちの息子が同級生に居て心底羨ましかった事を思い出す。今も昔も不公平な世の中だぜ。

時代は変わり、今やジャンプ+に飛べば最新話が無料で読めちゃう有り難き未来世界。更に言えば狙いなのか分からないけど【推しの子】はアニメ放映終了の30分後に最新話を読める流れになってる(但し今週は休載)。ガキの頃の俺にしてみれば夢みたいな話だな。でもまあ、何もなかったあの頃にはあの頃ならではの楽しさがあったから、長生きした分どっちも楽しめてるって事で納得しようかと。

2023年4月25日 (火)

マンガ原作アニメの進歩

基本、マンガやアニメとは巷の話題作で琴線に触れる物があれば試しに読んだり観たり程度の付き合い方で、その情報源がスーパーの食玩コーナーだったりするから何時も後追いだし原作マンガを全く読んでない物も多い・・つーか、全話読んだ昨今の話題作と言えば鬼滅だけで呪術廻戦もSPYxFAMILYも推しの子も未読。まあ先を知らない方が純粋にアニメを楽しめちゃうから結果オーライかとは思う(但しネタバレ注意)。

それでも書店の見本やネットカフェとかで視聴済みのエピソードにはパラパラと目を通したりするんだが最近のマンガ原作アニメは凄いね。キャラがほぼ完全再現な上にデジタル処理でブラッシュアップされてるし、絵の構図から台詞の一言一句までオリジナルに忠実。昔は声優さんの声に苦言を漏らす原作ファンが多かったけど業界全体のパフォーマンスレベルが飛躍的に向上してるから誰も文句を言わない。いや、言ってる人も居るとは思うが雰囲気的にマイノリティ。

なんかもう70年代中盤から80年代前半のマンガ原作アニメをリアルタイムで観てきた世代としては羨ましい限り。今の若いアニヲタは俺らがドカベンや北斗の拳のアニメ第1話にどれだけのショックを受けたか知る由もあるまい。同世代なら覚えてるかも知れないけどドカベンがアニメ化される少し前に水島先生の原画を使った金属バットのCMが流れてて、1枚画だったけど凄くカッコよかった。それがアニメになったらアレだったので、もう動かなくていいからもっとカッコいい画にしてくれよ~!と毎回毎回思わされ、遂には全く観なくなってしまった。

他にも色々あったなぁ。当時は吾妻ひでおさんに傾倒しててオリンポスのポロンが大好きだったんだけどこれのアニメ作品も衝撃的で、続くななこSOSもかなりのもんだった。そりゃ当時は全て手描きでスケジュールも厳しい時代だからシンパシー感じるけど原作ファン的にはやっぱ納得いかんよ。

今ならああいう軽いタッチのマンガは余裕で再現出来るだろうから少し観てみたい気もするが令和に吾妻作品なんて完全なる時代遅れだから、うる星やつら新版みたいな事になっちゃうだろうね。恐らく喜ぶのは俺みたいなオールドファンだけなので夢見るだけに止めておきましょ。

2023年4月 4日 (火)

PLUTO(プルートウ)全8巻 読了

約15年遅れで読み終えたけど素晴らしかったな。作品としての完成度もだが、オリジナルへ敬意を払いつつ別の視点で物語を組み立て直しながら、優れたリメイク作として成り立たせてる事が凄い。それと手塚作品に限らず様々な名作の要素を上手く取り込み、世界観に厚みを持たせる手腕も見事としか言いようがなく。ブラウ1589は誰がどう見たって羊たちの沈黙のレクター博士だし、押井版攻殻機動隊の影響もここかしこに見受けられるが、それらが単なるリスペクトじゃなく作品の血肉となってる。

手塚眞さんの2巻あとがきによると企画立ち上げ当初、浦沢さんは手塚タッチに寄せて執筆する事を考えていたらしいけど、眞さんは浦沢さん自身のタッチで描く事を許諾の条件としたそうな。エグゼクティブ・プロデューサーとして眞さんはこの上なく最良の判断をしたと思わされる。仮にこの作品が浦沢さんの描く手塚タッチで構成されてたらこれほどグッとくる物には仕上がらなかったと思う。浦沢キャラだからこそガツンと来るんだよな。アトム登場シーンとかマジでシビれるし、SW新シリーズでの主要3キャラ登場シーンに匹敵する衝撃。あとクライマックス間際の主役交代劇にも頭ひっぱたかれた。こう来るか!!と。

登場人物の表情がまた良いんだよなぁ。漫勉で浦沢さんがよく言うキャラの演技ね。眉毛と口元の処理がホントに上手くてちょいちょい泣かされる。歳食って涙腺が緩んでる事もあるけど、手描きの絵で読み手の心を揺さぶり泣かせるってのは大した才能だわ。

今はその余韻に浸りつつ本家の鉄腕アトムを読み始めた所だけど、ちょっとPLUTOの余波が強過ぎるから少し間を置いた方が良いかもと思わされたり。そう言えばタイムリーな事にNETFLIXで近々アニメ版が配信されるのね。プロモーション映像を観たら作画クオリティがあり得ないほど高いのでこれはかなり楽しみだ。日時が公表された時点で再加入確定。

2023年3月31日 (金)

鉄腕アトム 地上最大のロボット

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思ったより早く届いた。鉄腕アトム全巻も様々な形態で出版されてるけどこのサンコミックス版が一番安かったから迷わず即決。状態はそれなりだが読めりゃいいので万事OK。で、何はなくとも地上最大のロボットを一気読み。

これまた凄い作品だった。浦沢直樹さんがこのエピソードに感銘を受けたのは4歳の頃だったそうだけど、そんな幼児にまで米ソ冷戦や各国で繰り広げられる核兵器開発合戦の虚しさと不毛さ、更に人間の私利私欲の為だけに生み出された破壊兵器プルートウの悲しさをダイレクトに伝えてしまうんだから正に神の偉業。ちなみに公式サイトで情報を漁ると執筆時期は1964-65年。俺が生まれる1-2年前か。

PLUTOに登場する主要ロボット7体の名称は原作通りでゲジヒト刑事なんかほんの数ページしか登場しない。そのキャラを主役に据え、話を広げて再構築する浦沢さんの着眼点と発想力もまた非凡かつ見事としか言いようがなく。20年近く前の作品捕まえて何を今更熱く語ってんだか。

さておき原作を読むまで保留した俺の判断は正しかった。これで心おきなくPLUTOに没頭出来るな。その後は鉄腕アトム全巻制覇へ着手。正にマンガ三昧の日々。

2023年3月30日 (木)

マンガのメリットとアニメのデメリット

鉄腕アトム全巻が届くまでPLUTOも保留しようと思ってたのだが我慢出来ず2巻も読了。さすがにこれ以上読み進めると後悔しそうなので小休止。

俺ってそもそもマンガ属性の人間じゃないからこれだけ集中してマンガを読むのはホント久々。で、ふと思い出したのは大昔にテレビのトーク番組で観たマンガとアニメを比較して絶対的にマンガの方が有利だという分析。確かコメンテーターは上岡龍太郎さんじゃなかったかな。

曰く、アニメって進行速度が決められてて視聴者の感情とかは無視してどんどん先へ進んでいくけどマンガなら読者の思うがまま進行を早めたり遅めたり、立ち止まったり振り返ったり出来ると。

これ、火の鳥を読み始めた頃から痛いほど実感してる。俺ってば記憶力が悪いから前の展開をすぐ忘れちゃったりするんだが、そういう時はちょっと戻って確認し、ああそうだっけと思ってから改めて先へ進めばいい。それにガツン!ときた印象的な画は何10秒でも、それこそ何分でも何時間でも凝視してから次へ行く事も出来る。アニメだって録画データなら一時停止すれば同じ事だけど肉筆の1枚画ほど没頭出来なかったりするから、そういう点では確かにマンガへ軍配だな。

ただ、進行速度が決まってるからこそ生まれる魅力も確かにあるわけで、一概にマンガ>アニメとは言い切れないのが面白いところ。ふと思い付いたところで例を挙げるとうる星やつら2ビューティフルドリーマーなんかは紙面化しても全く伝わらないアニメならでは魅力を持ち得た作品だし。

とは言え今読んでる手塚作品やPLUTOに関しては言えば立ち止まれる事、振り返れる事の恩恵を十二分に受けつつ堪能してる。マンガとアニメ、いずれにもメリット・デメリットがあるので優劣を決めるのはナンセンスかもね。

PLUTOと鉄腕アトム

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昨日届いたので早速読み始める。送料込み約1000円だから映ちゃん号でBookOffへ買いに行くより安上がり。ちなみに俺、最初から最後までしっかり読んだ浦沢作品はYAWARA!とMONSTERだけで20世紀少年は断片的にしか読んでない。当然ながらPLUTOも未読。

まだ1巻しか読んでないけどこれも面白いなぁ。ミステリアスかつクールな作風がMONSTERを彷彿させたり。あと、サクサク読み進められて快適。これ、古典文学と現代小説を読み比べた時と全く同じで古い作品って読むのにちょっと時間がかかる。

俺、火の鳥は1冊2時間ぐらいかけて読んでたけどPLUTOは数10分で終わってしまった。ページ数の違いもあるがそれ以上に1ページ毎の情報量が異なる。それと時代のニーズに合わせた作りという事もある。古典と向かい合う時には頭を少し切り替える必要があるから読むスピードも落ちちゃうんだな。

さておき1巻を読み終えた時に思ったのはこのまま読み進めちゃっていいんだろうかって事。最低でも鉄腕アトムの地上最大のロボットは読んだ方が良いんじゃないかなと。で、またヤフオクで物色して鉄腕アトム全巻セットを落札してしまった。届くのは数日後になるからPLUTOも一時保留。

2023年3月26日 (日)

マンガ少年 別冊 火の鳥 読了とブラックジャックのラストカット

読み始めたのが12日からなので2週間で全9巻読了か。やはり個人的には未来編がNo.1で次点が鳳凰編。その後に書かれた太陽編が未読ではあるものの、前記2編を凌駕する作品とは思えないので気が向いたら読む事にする。

それとアマプラで2004年制作のアニメ版が観られるので未来編だけ観たら、これはちょっと申し訳ないけど全然乗れなかった。あの壮大な物語を映像化しようと思ったら最低でも2時間半は必要なのに、50分程度へ詰め込んでるから劇場版あしたのジョー並にダイジェスト然としてて何が何やら。とは言え映像作品って時間経過の描写では表現媒体的に不利という事も否めず。マンガの方ではたった1ページで5千年の時間経過が描かれ、しっかり成立してたりするので。勿論、手塚先生の表現力ありきだが。

その流れで浦沢直樹さんのPLUTOが読みたくなってヤフオク入札したり、これまた未読のマンガ版鉄腕アトム全巻入手を目論んでたり。今は手っ取り早い所で新書版ブラックジャックを読み返したりwebで情報収集したり。しかし公式サイトの全作リストをチェックすると新書版の時点で連載順と収録順が全く異なる事がよく分かる。作者本人の希望か編集部の意向なのかは知る由もないけど、短期連載予定だった1-5話だけ連載順と収録順が一致してて後はもうバラバラ。そして各巻の最終エピソードに傑作が集中してる。

リアルタイムで連載を読んでた世代として僭越ながら言わせていただくとブラックジャックって全エピソードが傑作という事はなくて失敗作も多い。そりゃそうでしょ。漫勉でも驚異のエピソードとして紹介されるけど当時の手塚先生は6作品の連載を掛け持ちで執筆し、1ヶ月に18もの締め切りを抱えてたと言うんだから1話完結のブラックジャックにやっつけ仕事が含まれてしまうのは致し方ないところ。で、そういう作品は収録が見送られ、連載終了後の読み切り作品を単行本化するにあたり穴埋め目的で蔵出しされるパターン。だから新書版21-25巻は失敗作比率が高い。

とは言え、そんな過酷な現場で数多くの傑作を生み出してきた事の方が驚異的で、今も忘れ得ぬラストカットは沢山ある。思い付くままに私的ベスト3を挙げると、

復しゅうこそわが命(新書版19巻 第182話)
二度死んだ少年(新書版2巻 第17話)
上と下(新書版12巻 第114話)

先の全作リストを参考にすると連載順では復しゅうこそわが命は第231話で連載終了後の読み切り作品、二度死んだ少年は第18話、上と下は第161話という事になってる。これが手塚治虫漫画全集になると更にシャッフルされるので全貌が掴み難い。

さておき上記3エピソードのラストカットに共通するのは台詞やモノローグがなく、1枚絵だけをポンと提示して読み手へ深い余韻を残す点。特に復しゅうこそわが命なんてエピソードそのものは大して刺さらなかったのに、ラストカットを見ると無条件で泣ける。初めて読んだのは中学か高校の頃で、当時からパブロフの犬状態で涙腺が緩む。読んだ人なら分かると思うけど、これは映像化も小説化も不可能。マンガならでは、マンガにしか出来ないマンガ表現の境地。強引な言い方をするとあしたのジョーのラストカットと同一線上の方法論で作り出されたカットだと個人的には思う。

【追記】
webで得た情報によるとこのエピソード、加山雄三のブラックジャックで映像化されてるのね。無謀というか何というか・・ 

二度死んだ少年のラストカットもグググッと来る。無言で佇むブラックジャックは果たして刑務所の塀を睨んでいるのか哀れんでいるのか、その答えを読者へ委ねたまま物語は幕を閉じる。上と下のラストカットもヤバいほどハートに刺さる。見開きとかじゃない小さな一コマなのが逆に良い。

ブラックジャックのみならず手塚作品って台詞の無いラストカットで読者のハートを掴むパターンが多い。漫勉での浦沢さんの言葉を借りれば読者を信頼するスタンスですか。この表現で伝わるだろうと。だからこそメッセージが伝わった時の感動も大きいんだと思う。昨今のバラエティ番組とか過剰な程にテロップを多用してるけど、結局あれって視聴者を全く信頼してない手法だから俺みたいなオールドタイプの受け手には刺さらないんだろうな。

2023年3月20日 (月)

火の鳥 鳳凰編とアラバスター

現在、火の鳥は6巻の望郷編を読み進めてるところ。これまた壮大なスケール感で圧倒される。

余計な情報を掴みたくないから火の鳥に関する情報収集は控えめにしてるけど、サラッと目を通しても鳳凰編(マンガ少年別冊では4巻)が一番人気で評価も高い。人間の業と輪廻転生を描いた一大叙事詩で確かに凄い作品だと思ったけど、今のところ俺の中でのトップオブトップはやはり未来編の終盤だなぁ。もう気が遠くなるほど長い長い時間経過の漫画描写に触れただけで頭がクラクラしてくる。

鳳凰編を読了し、次の復活編へ着手する前にこんなのもヤフオクで落札して読んだり。

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手塚先生のドキュメンタリーには負の遺産として何時も登場するアラバスター。ブラックジャックの前に週刊少年チャンピオンで連載されたものの人気が出ず短命に終わった作品で手塚先生本人も全く気に入ってないという。曰く、自分がどん底の時期に描いた作品なんだと。

実際に読んでみると序盤はまあダーク&ヘビーなれどもこれはこれで面白いのでは?と思ったりするのだが、アウトレイジよろしく登場人物がほぼ全員悪人なので感情移入出来ず、連載打ち切りという事情もあるんだろうけど救いようのない結末を迎える。物語展開のみならず以前観たドキュメンタリーでは手塚先生が原稿を見返しながら、こりゃ酷い線だねと自らの絵を批判してた。俺なんかは何時もの手塚タッチとしか思わなかったけど、作者にしか分からない闇の部分が滲み出ちゃってるのかも知れない。

手塚先生のチャンピオン掲載作品を掘り下げるとブラックジャックだけが長期連載で他は短命なのが興味深い。アラバスターは新書版だと全3巻、ブラックジャックは後の読み切り掲載作も含め全25巻、次のドン・ドラキュラが全4巻、七色いんこが全7巻、ミッドナイトが全6巻。他にもあるけど全2巻とか3巻とかそんなのばっかり。ブラックジャックが如何に突出した人気作なのかがうかがい知れる。

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